Transition

モノガタリ

ラジオ好きの友人に連れられて、青山の住宅街をさまよっていた。

 

「and up」には、古い映画のワンシーンに出てきそうな年代物のラジオが鎮座していた。1960年代中心に、デンマーク、ドイツなどの欧州ラジオ、スピーカが所狭しと並べられている。店内にはスローなボサノバが流れていて、目を閉じると、昼下がりの住宅地にいることが嘘のよう。自分が90年代の南米にタイムスリップしたような感覚になる。

 

日本の周波数帯と合わないはずの、そのおじいさんラジオのソースはiPod MINI だった。完全なデジタル機器のiPodと年代物の真空管ラジオとが、本当に良い雰囲気で音楽を鳴らしていた。iPodからの音は電波に乗り、真空管で暖められ、音楽となってその空間を形成する。大きさも、生まれた時期も、場所も、テクノロジーさえも全く異にするこの2つの組み合わせは、お互い楽しそうに音楽を奏でる。まるで電波を仲介役にして、現在から1960年代への旅行を楽しんでいるかのようでさえある。

 

ノイズの少なさやコンパクトさ、生産効率からみたら、集積化された現在のラジオと真空管のそれは比べるべくもない。「音」だけが高効率で鳴っている音響装置を離れて、たまには非効率な、しかし「音楽」を聞いてみるのも悪くはない。暖かみや優しさといった空間を、そこに感じられるはずだから。。。

 

2006/02/11

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